千葉家庭裁判所松戸支部 昭和63年(少)1950号 決定 1988年12月14日
少年 K・K(1974.11.30生)
主文
1 少年を初等少年院に送致する。
2 少年に対し強制的措置をとることは、これを許可しない。
理由
(触法事実)
少年は、少年Aと共謀のうえ、通行人から金品を強取しようと企て、昭和63年10月7日午前10時20分ころ、千葉県松戸市○○××番地先路上を歩行中のB子(当時75歳)を認めるや、少年Aが運転していたオートバイを同女付近にとめ、後部座席から降りた少年が同女の携帯していた布製手提バツクを引つ張り、同女がこれを懸命にはなすまいとしてもみ合いになるや、なおも強引に引つ張つて同女を路上に転倒させる暴行を加え、その反抗を抑圧して上記手提バツクを強取しようとしたが、同女が「助けて、泥棒」と叫び声をあげるなどしたため、同所から逃げ去つてその目的を遂げなかつたが、上記暴行により同女に全治約六ヵ月を要する右肩脱日骨折、右大腿骨頸部骨折の傷害を負わせたものである。
(適条)
刑法60条、240条前段(但し触法)
(処遇等)
少年は、小学校低学年時に父母が離婚し、父親のもとで養育されたが、小学校3年生ころから盗み、いじめなどの問題行動が現れ、中学に進学してやや落ち着くかにみえた時期もあつたが、2年生になると急激に生活態度が乱れ、怠学、不良交遊、喫煙、シンナー遊びが頻繁となり、夏休みころからは家出を重ねるようになり、2学期に入つて以降は全く登校せず、家出を繰り返しながら不良仲間とともに遊び暮らし、シンナー遊び、たかり行為や引つたくり、バイク盗や無免許運転など不良な行状が相次ぎ、警察や児童相談所の指導にもかかわらず、一向に生活態度の改善がみられず、本件触法事件もそのような生活を続ける中で犯されたものである。
上記のように少年の生活態度の乱れは大きく、鑑別所収容によつても内省の深まりは十分でない状態であり、本件調査及び心身鑑別の結果によつてもその非行性はなお高く、在宅による処遇ではその再非行への転落を防止することは困難な状態と認めねばならない。そして、このような非行性の程度に加え、児童相談所の一時保護からの再三の離脱や、粗暴な振舞い、鑑別所におけるいじめ行為などからも窺われるように、少年の施設からの逃避機制は相当明瞭なものがあり、しかも集団生活への適応性にも問題があることなどからすると、仮に強制措置を付するとしても教護院などの解放的な処遇を基本とする施設は少年の現状にそぐわず、初等少年院における生活の枠組みのなかで少年の心情を安定させ、自己の内面に目を向けさせ、基本的な生活習慣と健全な生活意識を養わせて改善させるのが相当である。
(強制措置許可申請事件について)
本件強制措置の許可申請は、上記のような少年の問題性の程度に照らし、少年を国立武蔵野学院に入所させ、かつ通算180日間の強制措置をとることができるようにする必要があるとして申し立てられたものであるが、上記のとおり少年を初等少年院に送致することとしたので、これを許可しないこととする。
(結論)
よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 中村直文)
参考1 送致書
柏児 第14-49号
昭和63年11月28日
千葉家庭裁判所松戸支部長様
千葉県柏児童相談所長
送致書
下記少年事件並びに少年の身柄を児童福祉法第27条の2により送致いたします。
記
事件名
触法(強盗致傷)
事件本人
児 童
氏名
K・K<男>・女
生年月日
1974年11月30日生(満13歳11ヶ月)
国籍
韓国
現住所
柏市○○××-××
TEL××××(××)××××
学校名学年
茨城県○○初中高級学校 中1年生
保護者
氏名
K・I
続柄
実父
現住所
児童に同じ
職業
運転手
現に収容されている施設
所在地
柏市○○××-×
TEL××××(××)××××
施設名
千葉県柏児童相談所 一時保護所
強制的措置を必要とする理由
本ケース,触法身柄付き通告を受け一時保護後、指導するが、表面的な受け止めしか出来ず、内省も弱く、保護してもすぐ無断外出、シンナー吸引、不良交友等を繰り返し、安定せず、指導が困難で、今後も問題行動を起こす虞れがあり、開放的な枠組の中での指導は困難であり、強制的な枠組での指導が必要と認められるため。
不良行為歴
昭和63年9月 仲間5~6人で、乗用車を運転、追突事故。
昭和63年9月28日付 ○○警察署より、オートバイ盗、家出、恐喝傷害のぐ犯通告。
昭和63年10月14日付 ○○警察署より、強盗致傷で身柄付き通告。
昭和63年10月20日付 ○○警察署よりシンナー吸引で通告。
昭和63年10月14日 一時保護、以後、無断外出を繰り返し、不良交友シンナー吸引。
処遇意見
強制措置希望。通算180日
国立武蔵野学院入所適当。
家庭状况
続柄
氏名
生年月日
職業
備考
父
K・I
1940.6.29
運転手
姉
K・K子
1973.3.19
無職
保護能力
父は、本児の問題行動がエスカレートし何とかしなければとの気持ちの変化があるが、依然として、放任状態で監護力に欠ける。
家族の素行
父母とも韓国籍。両親は、本児小学校低学年時に離婚。父はダンプカーの運転手、母は所在不明。姉には家出徘徊などの非行あり。
家族間の折合
姉が中学よりシンナー吸引、家出、不良交友等があり、本児も同調し姉の影響は大きい。
少年に対する態度
父トラック運転手で、勤務時間が不規則で不在がちで放任されている。家族には本児に対する適切な監護者なし。
住居地の環境
柏市南部の新興住宅街の一角に位置している。
生活程度
経済的には普通。
資産状況
不詳。
添付資料
<1>児童記録
<2>警察通告書(写)
参考2 児童通告書
様式第二十二号
児童通告書
児童福祉法第二十五条の規定により左記児童を通告する。
昭和六三年一○月一四日
○○警察署長
官職 警視 ○○
柏児童相談所長殿
児童
本籍
韓国
住居
柏市○○××番地の××
職業
学校・学年
茨城県水戸市○○初中高級学校一年
氏名
K・K<男>女
年齢
昭和四九年一一月三○日生(一三歳)
保護者
住居
柏市○○××番地の× 電話××××-××局××××番
職業
運転手
少年との続柄
実父
氏名
K・I
年齢
昭和一五年六月二九日生(四八歳)
通告理由及び処遇意見
少年は、友人の犯罪少年Aと共謀して本年一○月七日午前一○時二〇分頃、松戸市○○××番地先路上において通行中の被害者B子(七五歳)のバックを取ろうとして被害者に抵抗された際被害者を転倒させ左胸骨骨切の傷害を負わせたものである。被害者は現在入院中である。
少年には窃盗未遂と既遂の非行歴二件があり喫煙、けんか乱暴等の補導歴があり、学校にも行かず、ゲームセンターやパチンコ店等に出入りし、犯罪少年等との交友を繰り返している。父親にも傷害の前歴があり、姉も仕事をせずシンナー遊びやけんか乱暴などで補導されている。
本件事案は盗んだオートバイで触法行為を敢行しているもので、保護者の監護に従わず自己の徳性を害する行為が著しくこのままでは、犯罪少年となる虞れが高いので施設において、児童福祉司による矯正指導の必要が認められるものである。
証拠品及び所持金品等の品目、数量及び措置
本件事案は犯罪少年との共犯であるので、参考迄に書類を添付する。
備考